【 黒い夏と赤い自転車 】
「いーい天気だなぁ」
晴れ渡る空を、二人で見上げる。
季節は夏。
堤防を二人で歩く。
「ピクニックに行きたくなるよなー」
夏になると少し暑苦しいドレッドヘアをひとつに結って、
誰に向けたのかもわからない言葉を列ねる。
隣では三つ編みが風に揺れていた。
「あっついなー」
照りつける日射しが日に焼けた黒い肌を橙色に写す。
三つ編みは太陽の光を受けて蜂蜜のように輝いて、
真っ白な肌は透けて見えた。
「……なぁ」
初めて、相手に向かって言葉を投げかける。
白い顔がこちらを向いた。
「その帽子貸してよ」
「…いやよ」
蜂蜜色の少女はやっとその口を開くと、麦わら帽子をわざとらしく被り直した。
女の子らしい外見と声に反して、強気な態度でそう言うと、また前を向いて歩き出す。
赤い自転車には乗らずに手で引いて歩く。
赤と蜂蜜のコントラストが、とても綺麗に思えた。
「なぁ」
また声を掛ける。
こちらを向く。
その度に揺れる蜂蜜色の三つ編みが愛おしくて。
「自転車乗らねぇの?」
適当に聞いてみる。
顔が見たかっただけだなんて言えるわけなかった。
「…だってあなた歩いてるじゃない」
そう言って、今度はすぐに前を向いてしまった。
それは先程のような強気な態度ではあったけれど、
少し…照れくさそうだ。
自分を気遣うリゼットの態度が、ユンタにとっても少し気恥ずかしかった。
「二人乗りしたらいいじゃん」
「落ちるわよ、そんなの」
夏の、日射し。
入道雲
緑
体を抜ける風
足音
揺れる蜂蜜
あまのじゃくなところ
素直なところ
そのすべてが愛おしくて、
ずっとこのままがいいと思った。
「ピクニックに行きてぇなぁ」
「暑すぎるわよ」
揺れる鼓動、
暑い夏の日のピクニック。